ダニエル・ジョーンズ ~ニュージーランド・マルチスポーツアスリート~

ダニエル・ジョーンズ

ニュージーランドの最もタフなエンデュランススポーツアスリート

 

今回はウェリントンのランナーであると同時にメイン種目はマルチスポーツ(トライアスロンのように複数種目を一つのイベントで行うレース)を中心に取り組むダニエル・ジョーンズ(以下ダンと記載)の競技生活に関してまとめました。

ダンの行うマルチスポーツは、トレイルランニング・マウンテンバイク・カヤックの三つの競技をチームで行って順位を競うスポーツで、タイムを競うランニングとは少し離れたところにあるように感じます。しかし、昨シーズンのスピード練習開始から5000m14分38秒・10000m30分29秒とトラックのレースでも力を発揮しています。さらに不整地を含むハーフマラソンで67分11秒、ウェリントンのクロスカントリーレースで2勝とレースペース・地形に関わらずどんな状況でも力を発揮できるタイプの競技者です。

現在はマルチスポーツがメイン種目ですが、アメリカ留学時は大学のトラッククラブのメンバーで陸上中長距離のレースを中心として行っていました。

様々な競技を通して確実に成長していくことは、目先の勝利に急ぎすぎないために必要なことであり、一人の選手としての視野を大きく広げていくことであるとも思います。

欧米などトライアスロンの人気の高い地域では、トライアスロンのトップアスリートの選手は複数種目をトレーニングしながら10㎞を28分台で走ることが少なくありません。このようにランニングだけに集中せずに、様々なスポーツを取り組みながら違ったアプローチで成長してくる選手が日本に広まっても良いのではないかと思います。

 

ダニエル・ジョーンズ

生年月日:1990年9月26日

PBs: 5000m 14:38 / 10000m 30:29 /  Half-Marathon 67:11 / Marathon 2:20:06

大学:サム・ヒューストン大学、イースタン・ケンタッキー大学

IMG_9783

1、自然の中でのマルチスポーツ

『周りの環境が自然だけだったのでスポーツを始めた。』とダンは話す。ニュージーランドの大自然に囲まれた地域ワカタナエ(Whakatane)に住み、幼少期は川や森の中で遊ぶことが日常であったため、山を走るマウンテンバイクと川を下るカヤックとの出会いは必然であった。そしてランニングで野山・森の中を走ることもまた出会いというよりは、必然的に行うような環境であった。

IMG_9782

 

2、ジュニア期のレース

17歳の時に南島のネルソンで行われたニュージーランド・マウンテンランニング選手権で優勝したことがランナーとしての一つの節目となる。この種目での優勝で、ダンは初めてニュージーランドの代表選手としてスイスで行われる世界選手権に挑むことになった。世界選手権までの練習では父親のコーチングを受け、はじめて厳しいトレーニングを行い、大会ではベストの走りができると信じていた。しかし周りの参加選手は各国の代表選手であり、今まで体験したことのないようなペースで山を走っていく。レース中は自分が速いのか遅いのかもわからずにただ前に進むだけで、いつの間にかゴールだけを迎えるというようなレースであった。

ダンはこの時を振り返り、『世界大会のレベルの高さに驚いた。当時その大会は自分にとって少し高級すぎたかな…と感じていたよ。』と話してくれた。そのすぐ後、優秀なジュニア選手が留学するアメリカの大学へ進学する。

IMG_9787

3、大学進学

世界選手権という一つの経験が、ダンに新しい経験と思い出を残すだけでなく、アメリカの大学への留学という道を作ることになる。大学は奨学生としてサム・ヒューストン州大学で学士課程、イースタン・ケンタッキー大学で修士課程を修める。ここではマルチスポーツではなく、トラッククラブ(陸上競技部)に所属し、トラックでのスピード練習が中心となった。

大学の環境についてダンは、『3000mSCで8分30秒の選手を中心にスピードのあるランナーが集まり、その中にはオリンピック選手になったランナーもいる。毎日の練習でタイムを追わなければならず練習はいつもプレッシャーがあった。そしてレースは常に非常に高い緊張感の中で走らなければならなかった。』と話す。

“楽しい”よりも“プレッシャーを感じる”という環境は、日本の大学での練習環境に非常に似ているといった印象を、インタビューを通して筆者が強く感じたところである。

IMG_9789

しかしダンは身を置いたトラッククラブの思い出についてこのように付け加えて話す、

『現実ではないような経験・体験・思い出だった。』

ダンはニュージーランドからの留学生であったが、トラッククラブにはフランス・ベルギー・ドイツ・デンマーク・ケニア等、様々な国から多くの学生が留学生として在学・所属していた。ロッカールームでは、英語だけでなく至る所でチームメイトが様々な言語で会話をしており、とても面白かったと話す。そんなチームでの遠征や合宿は“普段にはない高度な緊張感”と共に”仲間との充実した時間”をチームの一人一人に経験させてくれたと話す。

 

4、現在のトレーニングプログラム

マルチスポーツをメインにトレーニングする時期

  • 80㎞/week ランニング
  • 2hours/week カヤック
  • 2-3hours/weekマウンテンバイク

ランニングを中心にトレーニングする時期

  • 120㎞/week (ゴールドコーストマラソンに向けて140㎞-150㎞)

 

週間のスケジュール

月曜日 ランニング(通勤6㎞)- バイク

火曜日 ランニング(通勤6㎞)- カヤック/ランニング(スピード)

水曜日 ランニング(通勤6㎞)- バイク

木曜日 ランニング(通勤6㎞)- ランニング(ロング)

金曜日 ランニング(通勤6㎞)

土曜日 ランニング(テンポ走) - カヤック

日曜日 ランニング(ロングラン2h)or バイク(2h)

トレーニングプログラムは14歳から15歳頃に始めたが、当時はあまり質は高くなく、マウンテンバイクやカヤックの技術練習する(これらのスポーツを学校が終わった後に楽しむ)といった形であり、ランニングも軽く走る程度だった。練習をやや本格的に開始したのは17歳の時でマウンテンランニング選手権に出場する際に、父親のコーチングを受けてトレーニング強度を上げたことが初めてだった。

トレーニングはスピードよりも、山の中をスピーディーに走るトレイルランニングを好んで行った。現在でもそれは変わらず、トラックを何周も走るよりも山の中を走ることを好んで走っている。

ニュージーランドやオーストラリアの選手は、恵まれた自然の影響もありトラックやマラソン選手でも基本的にはトレイルを選んでランニングを行う傾向が強い。こうしたランニング環境は、様々なスピードや体の使い方、ランニングだけではないスポーツへの対応力を養う基礎の一つにもなっている。IMG_9792

また、マルチスポーツの魅力の一つは、種目を変えることで意識を変えることができること。同じトレーニングは飽きてしまうことがあるけれども、様々な種目を行うことでいつも新鮮な気持ちでトレーニングを行うことができる。

IMG_9780

トレーニング計画のポイント

『ランニングで結果を出したいときは、クロストレーニングも重要であるが一つの種目に集中した方が良い。そのためランニングで結果を出したいときはランニングに集中する。』

『マルチスポーツで結果を出したいときには、一つ一つの種目に多くの時間を掛けなければならないので、毎日のトレーニング量を増やすのではなく長期的に見て必要な分を割り振っていく形で一日の練習量を決める。ランニングのためのモチベーションが低かったり、故障していたらバイクやカヤックのトレーニングを重視するが常にバランスを考えている。そういったクロストレーニングをうまくかみ合わせることがマルチスポーツの最も重要なところである。』

『トレーニング計画を開始する段階の体力レベルにもよるが、一つの大会に向けて、およそ3か月のトレーニング計画を考える。3か月間のトレーニングを開始するにあたっては、基本的にははじめの体力レベルはある程度高いことが前提である。』

『一つ一つの違った能力がどのように向上しているのかは、練習の努力感で判断していく。各種目が少しずつ向上していることを確認しながら練習のバランスと量を見極めていく。最も大切なことは自分の体や練習に合うかどうかというところであると思う。自分に合う練習を段階的に引き上げていけば自然に結果はついてくる。大きな目標とするレースまでに小さなレースがいくつかある。個別の種目、マルチスポーツの大会、どちらでも関わらず、大会で得られる結果は、どれぐらいトレーニングが進行しているのか、感覚的にも客観的にも評価する基準になる。』

ダンのトレーニングで重要視しているポイントを聞くと次のような答えが返ってきた。

『トレーニングは自分に合っているものを選ぶ。そしてそこに楽しさがあるものを選ぶ。またチームメイトとの練習は最も楽しい練習の一つであり、ランニングを中心にしている選手から多くのことを学べる。』

1524611879886
左からダン、ニック・ホースプール(マラソンオセアニア選手権2位)、筆者 ※3㎞×4 ウェリントンスコティッシュのクラブで力が拮抗した3人は目標はそれぞれ違ってもよいトレーニングパートナーになる。)

マルチスポーツを進めていく上で、バランスや量・質と多くのことを思慮深く観察しなければならないがダンの練習の根底には“楽しむ”が基本的なベースとして位置づけられている。

そしてレースでは3種目を通して仲間と共に多くのことを経験する。

『レースは行く先々で違う。同じものは一つもない。一つ一つのレースで、いつもいい結果とは限らないけれど、いつも新しい経験ができるとともに、忘れられない思い出が増えていくことが嬉しい。』

21432960_1907364839503224_3654267570319421436_n

 

5、目標と今後の取り組み

『実際には2018年は、マルチスポーツよりもランニングに集中してマラソンで結果を出したいと考えて取り組んでいる。近くの目標は7月のゴールドコーストマラソン。(インタビュー時はゴールドコーストマラソン前。ゴールドコーストマラソンは初マラソンながら2時間20分06秒で走破。)そして2019年は今年の結果を見てのステップアップを考えているとともに、ウルトラマラソン(100km)にもチャレンジしたい。“長距離走“の種目はいつの時も自分にとって大きなチャレンジだよ。』

IMG_9779
ゴールドコーストマラソンは、初マラソンでは2時間25分を目標に臨む。2:20:06はマルチスポーツ専門の選手としても、マラソンデビューのマラソナーとしても会心の走りといえる。

『東京オリンピックにむけては、自分のできる範囲で“ニュージーランドチーム”のサポートをできれば嬉しい。』

IMG_9087
左から筆者、ハーミッシュ・カールソン(1500mリオオリンピックNZ代表)、ダン。リムタカトレイルでの35㎞ラン

 

視野を広げること、学ぶこと、繋げていくこと

一つの競技に対してストイックになるのではなく、様々な競技を通じて自分自身の能力を高めていくというアプローチはあまり日本では見かけない。複数種目を行うなかで『一人で集中して行う練習』があること、ランニングをチームで行い『複数人で一つの練習に集中すること、その中から学びを得ること。』ダンの練習計画では、自分に≪最も適した練習≫≪計画に必要な練習≫≪質の高い練習≫これらが≪楽しむ≫という大きな基礎の上にバランス良く組み合わさることによって、複数種目を行いながらも一つ一つの競技力を高めていくことを実現している様子がうかがえる。

ダンの行うような競技への取り組みは、≪一つに集中できない≫というネガティブな印象ではなく、≪トレーニングに対する視野を広げる≫≪バランスを整える≫といった非常にポジティブなものだと筆者は感じる。また、競技を通してお互いを高め合う仲間の存在が大きく、常に刺激し合い、サポートし合いたいという心の繋がりは、ランニングだけではないすべてのスポーツ選手への繋がりと敬意を表している。

マウンテンバイクもカヤックも山の中でのランニングも、子供の頃の遊びが結果的に現在は競技に繋がりこれらを競い合っている。大人になった今は練習だけでなく、仕事や生活とのバランスも考えながら競技を行わなければならない。しかしダンにとってみれば今でもこれらの遊びを全力で楽しんでいるだけなのかもしれない。

 

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中