コモンウェルスゲームズ マラソン結果
女子
男子
コモンウェルスゲームズのマラソンは男女ともに多くの感情が入り混じるレース・フィニッシュとなりました。
女子では、ナミビアのへラリア・ヨハネスが37歳にして世界大会で初タイトルを手にしました。これまでの成績は前回のコモンウェルスゲームズ・マラソン5位というものが自身のキャリアで最も良いもので、オリンピックや世界選手権では2012年のロンドンで11位(2時間26分9秒)がありましたが、それ以外は上位にランクされることはほとんどなかった選手です。解説でもしきりに“ダークホース”と25㎞以降言われていました。
その選手が、ケニア・オーストラリア勢の間に割って入る形で集団をブレイクし、非常に暑いレースとなったゴールドコーストの後半を力強く駆け抜けました。
2位に入ったオーストラリアのリサ・ウェイトマンもベテランの39歳。インドで行われたコモンウェルスゲームズ2010で3位に入ったものの、オリンピック・世界選手権を通じて目立った成績はありませんでした。
こういったベテラン選手がトップを争う走りは、これまでの競技キャリアにある“強さ”というものを観ている観衆に強く意識させるものになります。
基本的に走力はあまり変わらずに、若い世代で力を上げてくる選手が4年ごとのオリンピックで新しい世代を迎えていく中では、代表になること自体難しくなっていきます。また体・生活・競技のマネジメントも難しくなってきます。それにもかかわらずこのようなパフォーマンスを自分の狙った場所で発揮できることは、競技者として人間としての強さを強く感じさせます。
記録ではなく、観ているすべての人・応援する人の記憶に残るランナーになることは間違いありません。
男子のレースは、早い段階で優勝候補筆頭であるスコットランドのカルム・ホーキンス選手、ウガンダのムタイ選手、オーストラリアのアダムス選手・シェリー選手に絞られます。
ケニア勢が早々に交代するということはあまり予想できなかったことですが、ホーキンス選手スタート後・約25㎞の地点を1時間19分で通過したあたりで独走を開始します。
続くのはシェリー選手・アダムス選手のオーストラリア勢が追いますが、明らかにフォームの躍動感が違いました。足をあまり上げずに走るシェリー選手・アダムス選手(リアム・アダムス選手はメルボルンを代表するトラックランナーで5000m13分30秒のスピードランナー)とは対照的に、ホーキンス選手はハーフマラソンか10000mが今始まったかのような力強いフォームで後続を引き離します。
しかし、39㎞過ぎに観ている側からも明らかにわかる異変が起こります。歩道に何回もより、乗りあがり、ガードレールにぶつかる。
これを繰り返しながら40㎞地点までたどり着きますが、40㎞地点をわずかに越えたところで転倒、必死に起き上がろうとしますがその体に力はなく、最後は横たわってしまうというショッキングなシーンとなりました。
最も差が開いた時点で約3分の差がありましたが、その間にオーストラリアのシェリー選手、ウガンダのムタイ選手が横を通過していきます。
約3分の差は直線では確認できず、シェリー選手はホーキンス選手を抜いたとにどのようなことを思っていたのでしょうか。
本日のゴールドコーストは中間地点ですでに気温は26度を超えており、厳しいレース環境であったことは間違いありません。しかし、マラソンはこうした環境そして選手の行ってきた対策に関わらずこのようなアクシデントを発生させるスポーツであることに昔から変わりはありません。
近年は科学の力でサブ2(フルマラソンの距離で2時間を切る)を達成することが、人間の限界へのチャレンジとして言われています。
しかし今回のホーキンス選手の走りは記録とスピードといった限界への挑戦ではなく、レース中に起こる体の変化とそれを乗り越えての“勝利”という自己への限界を突破しようとする強い意志、そして“勝利への執念”を感じさせるものとなりました。
限界を超えても、更に前に進もうとする姿、そして倒れてもまた起き上がろうとする意志の強さ、これこそ真のマラソンランナーの姿だと思いました。
今回は女子では一つのタイトルを何年も追い続けての獲得。男子ではタイトルを目前にしての苦しい敗北。と“マラソン“という競技の美しくもあり、残酷でもある競技特性を色濃く映すレースとなりました。